Palm Reading FUMIKO

『心技体』心➡こころ 技➡技術 体➡体験 占いの軸にさせて頂いてます。

見知らぬ侵入者

 

 小雨がぱらつく平日の午前。

 玄関を出ると足音が聞こえてきた。

 足音は我家の前で止まり、スマホをジッと見ている女子が居た。

 この先は行き止まり。

道を間違えてUターンする人が多い。

 歳の頃は10代、高校生ぐらいだろうか?

 全身を黒で統一したカジュアルな服装と銀髪が目立つ。

 短パンから伸びた細い足が、

華奢な体を表していた。

 いっこうに動く気配のない彼女に私は声をかけた。

 「この先は行き止まりですよ」

 すると顔を上げた彼女がスマホを差し出しながら

 「ハイ…分かっているんですけど、mapだとこの辺なんです」

 手がかりがほしいのだろう。

差し出したmapが、老眼で全く見えない。

 「家を探していて…ドアの鍵は開いてるから勝手に入って来て、

って言われてるんです…」

 か細い声で説明された内容に驚いた。

 

 『鍵が開いてる…

  勝手に入って来ていい』

 

 ってどんな家???

 気になったのが腕の内側にあるミミズ腫れの線。

 横に数本ある。

 『リストカットの跡…』

 

 突き当たりの向こうにアパートがある。

 昨日、アパートの住人が大声で騒いでいた。 

 あの男子高校生の友達だろう。

 友達が大勢来ていた様だ。

「探している家はアパートじゃないかしら?

案内するので一緒に来て下さい」

 私が先頭を歩きアパートの正面まで案内すると

 「ありがとうございました」

と女子は頭を下げた。

 

 『連日どんちゃん騒ぎかしら?

 学校はどうしたのかしら?』

 そんな事をつらつら考えながら そのまま買い物に出かけた。

 

 我家の朝は遅い。

 

 買い物を終え帰宅すると、いつもならまだ寝ている夫が、珍しく1階のリビングに居た。

 「あら、早いわね…」

と私が声をかけると

 「大変な事があったんだよ」

と私が留守にしている間の出来事を話し始めた。

 

 

 私が出かけてからしばらくして

玄関のドアが開いた。

 番犬のムー君がけたたましく吠える。

 『ドアが開くと吠える』

番犬活動はムー君の日課だが、今朝は尋常ではない吠え方だ。

 リモートで仕事をする娘がムー君の様子を見に行くと、階段に見知らぬ女子が立っていた。

 

 『誰❓』

 

 階段を上がって来た女子だが、一歩も譲らないムー君の噛みつく勢いに阻まれて、立ち往生をしている。

 

 「あなた…誰ですか?」

 娘が尋ねると、女子は恐る恐るスマホを差し出し、か細い声で答えた。

 「mapだと…この家なんです。鍵が開いてるから入って来ていい…って言われたんです」

 

 見知らぬ侵入者に

 『何を言ってるだろう❓』

と娘は思いながら

 「ウチは違いますよ❢」

と説明していると、

『吠えやまないムー君がおかしい』

と察した夫がようやく寝ぼけ眼で起きて来た。

 

 『一体…誰❓』

 

 驚いたのは女子も同じだったらしい。

 居るはずがない見知らぬ中年男がパンツ一丁で出て来た。

 

 スマホのmapを我家で検索すると、お向かいの2軒隣に位置してしまう。

 という事は探している家もmapがズレて案内している可能性がある。

 

 半ベソ状態の女子に

 「どこから来たの?」

と尋ねると、沿線を9駅下った所から、電車で30分かけてやって来た事が分かった。

 「相手に連絡を取ったら?」

と夫が言うと

 「連絡が取れない…」

と今にも消え入りそうな声で女子は答えた。

 

 小雨がぱらつく外に女子は出て行ったが、我家の前でまだスマホを検索している様子を見た夫が、

 「雨が降っているから、玄関で座って連絡を取っていいよ!」

と声をかけたが、

 「大丈夫です…」

と涙声で女子は答えたそうだ。

 

 話し終えた夫に

 「私はその女子に会ってるよ。

 アパートを案内したもん。」

と私が言うと夫は目を丸くした。

 

 

 玄関の鍵をかけずに出かけてしまった私も悪いのだが、遠路はるばるやって来て、mapで案内された家に入ってみたら、見知らぬ住人が居る。

 いくつもの偶然が重なって起きた出来事かもしれないが、見知らぬ家に、どんな人が住んでいるか分からない場所に、行ってしまう子供。

 間違えて入った家が我家だったから良かったが。

 いとも簡単に、犯罪に巻き込まれてしまう環境に子供達がいることを知り、見知らぬ女子を案じてしまった。

 夫も

 「その相手は大丈夫なの?」

と女子に聞いてしまったと言う。

 

 

 『引き寄せる』という言葉がある。

 

 若い人達が心が病んでしまう今の時代、何とか出来ないものか…と日頃から考えている。

 話しを聞いてあげられる場所。

 聞いてあげられる人。

 私はそれが必要だと感じている。

 だからだろうか?

 もしかしたら…

 引き寄せたのかもしれない。

 

 細い腕に数本あったミミズ腫れ。

  

 女子がこの先護られて

 生きていける事をただ

 祈るしかなかった。